恋の駆け引き
 タバコを吸い終わると、何か飲み物がほしいと、道路を渡って、自動販売機まで行った。



  「何か飲みたいものある?」


           と聞かれ、私は


  「いらないです」


           と答えた。



  「本当にいらないの?」


           としつこく聞いてきた。


 
 そのたびに私は


  「飲みたくなくて」


           と答えた。



 何か私に、買いたくてしょうがないらしい、遠藤は


  「お土産屋さんもあるけど、お土産いらない?」


           と諦めずに言ってきたが、私はかたくなに


  「いらないです」


           と言った。



 本心は『いらないから、早く帰ろう』と言いたかった。
 



 自動販売機で、コーヒーを買った遠藤は、ちょっと休憩しようと、再び道路を渡り、湖の見えるベンチに腰を下ろした。



 この時、遠藤との距離を一人分くらい開けて座った。



 遠藤はその距離を縮めようとはしなかった。



 周りは数組のカップルがいて、雰囲気も静かで、星も出ていてすごくよかったが、私達の関係や距離はそんな雰囲気も、関係なかった。



 そんな関係を、表すかのように、花火の音は聞こえても、花火の姿が見えなかった。



 それでも、私は、この時、今日の中で一番、楽しいひと時を過ごしていた。



 湖を見ながら、自分の世界に入り、ボーっとしているのが楽しかったのだ。



 そんな時間も長く続かなく、遠藤が、コーヒーを飲み終え、タバコを一本吸い終わると


  「そろそろ行こうか」
         と私の幸せなひと時を、終わらせ、再び帰りのドライブが始まった。

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