ロンリーファイター
この書類、少しでも片付けなきゃ帰れない……。今日もまた残業だな。
溜息をつきながら髪をぐしゃぐしゃとかいていると、カツカツとヒールの足音が近付いてきた。かと思えば、開けられたフロアのドア。
「あれ、稲瀬さん。会議終わったんですかぁ?」
顔を覗かせたのは、早くも私服に着替えた峰岸さん。
「あ、うん。峰岸さんはもうあがり?」
「はいっ、稲瀬さんはまた残業ですかぁ。えらーい」
彼女はまつ毛をぱちぱちとさせながら言うと、デスクに忘れてしまったらしいストールを手に取る。事務員の制服から着替えた私服姿は相変わらず可愛らしいけれど、どこかいつもより華やかな気がする。