ロンリーファイター



「…た、田口く…」

「お疲れ様」

「…?」

「稲瀬さんは、いつも頑張ってるっすよ。それこそ、誰もその苦労に気付かないくらい普通の顔して」

「……」

「…寧ろ、少し頑張りすぎ」





頑張ってる、なんて言われたの何年ぶりだろう。

それこそお店で働いていた頃は、店長や他の皆からそう言って貰えることも少なくなかった。


けど本社勤務になって、年月を重ねるうちにいつもかけられる言葉は『頑張れ』、その言葉ばかりだったから。





『いつも頑張ってる』





その一言に、心の糸は切られ

途端に涙が溢れ出す





「…っ…」

「…、」





何してるんだろう、私

10歳も下の子の胸に縋って、いい大人のくせして泣いて

けど彼はそれを笑うことなく、抱き締めていてくれる。



静かな、人のいない朝方のオフィス街は、まるで二人きりの世界。

涙が零れる度に心が軽くなっていくのを感じる。




< 78 / 333 >

この作品をシェア

pagetop