ロンリーファイター
「…た、田口く…」
「お疲れ様」
「…?」
「稲瀬さんは、いつも頑張ってるっすよ。それこそ、誰もその苦労に気付かないくらい普通の顔して」
「……」
「…寧ろ、少し頑張りすぎ」
頑張ってる、なんて言われたの何年ぶりだろう。
それこそお店で働いていた頃は、店長や他の皆からそう言って貰えることも少なくなかった。
けど本社勤務になって、年月を重ねるうちにいつもかけられる言葉は『頑張れ』、その言葉ばかりだったから。
『いつも頑張ってる』
その一言に、心の糸は切られ
途端に涙が溢れ出す
「…っ…」
「…、」
何してるんだろう、私
10歳も下の子の胸に縋って、いい大人のくせして泣いて
けど彼はそれを笑うことなく、抱き締めていてくれる。
静かな、人のいない朝方のオフィス街は、まるで二人きりの世界。
涙が零れる度に心が軽くなっていくのを感じる。