ロンリーファイター
「…、」
ようやく止まった涙に顔をあげると、そこには優しい表情でこちらを見つめる田口くんの顔。
「化粧、取れてる」
「えっ、うわ!本当だ!目元がすごいことにっ…」
急いで体を離し目元に触れ確認する私に、スッと差し出されたのは一枚のハンカチ。
「どーぞ」
「あ、ありがと…」
それを受け取り、目元をそっと拭う。
「何か今日は田口くんにお世話になってばっかりだね。今度お礼にまたご馳走するよ」
「まじっすか。…あ、でもそれだけじゃ足らないかも」
「え!?」
「だって徹夜で働いたし、胸貸したしハンカチも貸したし…」
「ううっ…じゃ、じゃあどうすれば…」
「…そうっすね、じゃあ名前で呼ぶ権利ください」
「え?」
一瞬その言葉の意味がわからず首を傾げる私に、田口くんはそう笑って歩き出す。
「ほら行きますよ、椎菜さん」
「…!」
私の腕をそっと引いて、朝陽の中を歩いて行く。
「…うん!」