そのSNS
☆☆☆☆☆☆
「そういえばミンミって彼氏いるよね?」アイドルグループ『風雨』のメンバーである瞬が訊いた。その甘く透き通った声を耳元で囁かれ、ミンミの全身に電流が走り、思考は麻痺する。
 なので、「うん」としか言えない。
 ミンミは、高校生のときから彼らグループのファンであり、その中でも瞬は格別に好きである。理想のアイドルが今、彼女に腕枕をしている。
 誰にもいえない。秘密というのは、胸にしまっておけばいいのだ。誰かに〝内緒だからね。実は〟なんて喋った途端、既に秘密ではなくなることを大半の人間は知らない。
「アイドルは辛いよ。何事も好感、印象良くしろってさ。さすがにストレスがたまる」
 瞬が溜め息をついた。彼女だけに見せる、日常の瞬。
「私が、癒してあげる」とミンミは彼の髪に触れ、「でも、ミンミは不思議だ。なぜ不思議かというと芸能人っぽくないんだ。だからかな、安心する」と瞬は綺麗な歯並びをのぞかせた。その言葉に対し、ミンミはドキッとしたが、「ありがとう」と笑顔を返した。

 一時期、アイドル本人が行っているSNSが話題になった。しかし、そこに辿り着くには、会費を払い、有名人同士の繋がりで登録することになっている。なので、大半の一般人がそのSNSに登録するのは難しい。
 が、ミンミは可能だった。そのサイトを運営しているのが、ミンミの父親だからだ。そのアイドル限定のSNSサイトにミンミはグラビアアイドルと偽って登録した。顔と胸には自信がある。
『風雨』の瞬は、甘いマスクと同様に甘いケーキを好む。日常画像を閲覧する度に、ミンミは同じ時間を過ごしている気になる。できれば同じ時間を共有したいと思い、ミンミはダメ元でメッセージを送った。するとどうだろう。なんと、返信があった。「ミンミって名前、素敵だ!」瞬の文面に彼女は床を飛び跳ねた。嬉しさのあまり握っていたマウスを壊してしまった。
 有頂天。
 その後は急展開だった。実際に会うことになった。それも夜。何かが起こる夜。 

 起こったから今がある。
「彼氏と俺、どっちが好き?」瞬がいたずらな笑みを見せる。
 罪な質問。悩むまでもない。
 ミンミは瞬の頬を指で小突き、「決まってるじゃない」と唇を重ね合わせた。
 瞬もミンミと呼応し、リズミカルに舌が絡む。
 小休止を経て、「好きだよ」と瞬。
 その一言に、ミンミの全身は再度麻痺した。
 

 
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