神龍と風の舞姫

満月の夜

「ああ、もう。海斗ったらどうしてこうも人使いが荒いのかしら。私は乙女よ」

手元でぼこぼこと音を立てて水筒に冷たい水が入る

「第一、水汲みって力仕事よね。それをか弱い私にやらせるってどういうこと?しかも無言で水筒押し付けて、まるでさっさと行けと言わんばかりに手で追い払うとか」

いったい海斗は私をなんだと思っているのよ

二本目の水筒も激しく音をたてる

現在、とある森の中にある湖のほとり

しるふは、野宿の準備をしていた海斗に問答無用空でなった水筒を押し付けられ、抗議するまもなく追いやられてここに至る

時は夕刻をとうに過ぎていた

森の中はすでに暗さが広がり、足元に気を付けていないと時々転びそうになる

戻った時に夕飯ができていなかったら海斗の首を絞めてしまいそうだ

「ホント世界が羨む舞姫と一緒に旅してるっていう自覚がないのよ。もっと私を大切にするべきよね、あいつは」

きゅっと蓋をよく絞めて専用の布の袋に二本の水筒を入れる

とはいうものの水筒はせいぜい500ml位の小さいもので大して重さもない

そこまで重労働といいわけでもないのだ

「夜の森よ?か弱い乙女一人水汲みに行かせるその精神が理解できない。野獣にでも襲われたらどうしてくれるのよ」

なんていいながら静かに襲われてやるような女ではない

「せめて二人で行くとか、海斗が行くとか。いや、それじゃ私が一人に……。明日の朝を待って水組むとか方法はいろいろあるのよ。なのに、あの鈍感、でくの坊め」
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