神龍と風の舞姫
「ありがとう」

声を聞かせてくれた風たちにお礼を言うと、風たちは木々の間をすり抜けて行ってしまった

その行方を見届けつつ、しるふは手にとまっている小鳥の頬を撫でる

小鳥は気持ちよさそうに目を細めている

優しい瞳を小鳥に向けつつ、頭の中では今聞いた情報が目まぐるしく行きかっている

しばらくの間、小鳥の頬を撫でつつ、思案気な顔をしていたしるふはつんつんと小鳥の頬をつつきふわりと左手を空に差し出す

タイミングを合わせるように小鳥がパタパタと飛び立って行く

その姿が木の葉に隠れて見えなくなるまで見送った後、しるふはくるりと踵を返して歩き出した

新緑が美しいこの季節、地面は新緑の陰になっていい感じの湿り具合だ

滑るほど湿っているわけでも砂埃立つほど乾燥しているわけでもない

柔らかな土の感触を靴裏に感じつつ、しるふは木の根の階段を上る

大木の多いこの森の至る所で木の根は地面に顔をだし、時にはくぐれるほどうねりながら再び地面に突き刺さっている

普通なら歩きにくく、下手したら迷いかねない森の中もしるふにとっては、安らぎの空間だ

木々がどちらに行けば帰れるのか教えてくれるから迷うこともない

迷うということはその森に拒絶されたということ

受け入れてくれれば森は自ら地面を照らし、木々をかき分け、森の中へと案内してくれる

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