神龍と風の舞姫
「うん。真っ暗な闇の中にいて、誰も何も見えなくて、」

そっと不安そうな色をしたしるふの瞳が向けられる

「海斗の気配も、感じなかった」

二人の間を抜ける風は、気温が低いせいで冷たい

それがさらにあの時感じた焦燥感を思い出させて、しるふはぎゅっと下ろした手を握る

「…たとえ、」

しばしの沈黙の後、凛とした海斗の声が響く

「たとえ、それがどこであろうとも、しるふが心の底から望むのならその声は届く」

しるふが海斗を信頼してその名を口にするのなら

たとえそれが強力な魔力で作りださえれた異世界でも海斗には届く

そして

「その声が聞こえるなら、俺はそれに応える」

それが忠誠というものだ

世界でたった一つの称号

それは強力な信頼という名でつながる

形なんてないから支えるのは信頼だけ

信頼が揺らげば、声は届かない

「……うん」

瞳を閉じて頷くと海斗の気配とぬくもりをもっと近くに感じた

背中に回った手に抱き寄せられながら海斗の服に顔をうずめる

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