空から舞い降りた天使
「なに楽しそーに笑ってんねん…。」
「隼人…」
隼人は自転車を押しながら、亜子の歩調にあわせ、ゆっくりとすすむ。
「誰がみてるか、わかんないよ。」
「誰がどう見ても、先生と生徒やから、大丈夫。」
「そこの芝生にすわろうか。」
「亜子、手かしてみぃ。」
亜子は隼人に右手を差し出す。
隼人の左手とかさなり、そのまま、隼人の膝に二人の左右の手がおかれる。
「なぁ、亜子
俺の前だけで、笑ってくれへんか?」
「うん…なるべくそうする。」
「亜子、俺ガキやけど、案外、亜子よりしっかりしてんで。」
「そう…かもしれない。」
「俺に甘えてええねんで」
「なかなか、そうはいかっ」
重なった手に力がはいり、
「亜子、こっちこいや。」
隼人はそういうと、亜子を引き寄せ、強く抱きしめた。
そして、耳下で囁くように。
「なぁ、亜子、俺、卒業まで、がまんでけへん。」
「……」
薄い雲に見え隠れする、月の灯りだけが二人の重なり合った手を照らしていた。
卒業まであと4ヶ月。