竜王様のお約束
そんな動揺を見せるリョクの腕をそっとほどいて、エミは静かに指で目じりを拭い、キッとコクリュウを睨みつけた。


そして、冷ややかに疑問の声を放つ。


「コクリュウと名乗られましたね。
あなたは私が先ほど見た、あの巨大な黒龍なのですか?
だとしたらなぜ、人間の姿をしておられるのです?」


「便宜上、私達は人間の姿でいます。
龍でいる時の方が、むしろ少ないくらいなんです。」


コクリュウは、素直にエミの問いに答えた。


あの巨大な黒龍と、目の前のコクリュウなる青年が同一人物だと分かると、エミの表情はまたも歪んで、膝を着いているコクリュウの側にしゃがみ込んでしまった。
そして両手で顔を覆い、エミは声を振り絞る。


「なぜあなたは、ヤヨイ様を連れ去ったのですか?」


それを聞いたコクリュウは、悲しそうな笑みを浮かべてエミを見つめ、噛みしめるようにゆっくりと、言葉を発した。


「言い訳をするつもりなど、微塵もない。
すまなかった。この通りだ。」


その言葉に、エミは顔から手を離し不思議そうにコクリュウを睨む。


「言い訳?
当然でしょう。私が聞きたいのはいい訳などではありません。
理由です。なぜヤヨイ様を連れ去ったのか、その理由を聞きたいのです。」
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