竜王様のお約束

龍神が住まう天界において、天界を統べる竜王こそが絶対の存在であった。


時間の観念のないゆったりとした世界の中で、食物を必要としない彼らは定期的に竜王から分け与えられる生気を得て、悠々自適に日々を暮らしている。


竜族の中でも一際巨大な肢体を戴きこの天界に君臨しているのは、、鹿の角・獅子の顔・蛇の胴体・鯉の鱗・鷹の爪に虎の手を持つ龍の一族である。その龍の一族であり、龍族全てを束ね、天界を統べる龍神の長が竜王だ。


龍の一族は天候を操り自然を掌握できる能力を持つ。竜王たる者は秀でてその能力が高く、他を圧倒する力の持ち主でなければならない。天界を統べる竜王の大切な仕事の一つに、天界の住人に生気を分け与えるというものがあるからだ。


生気は風に乗せ雨に混ぜ、広大な天界全土へと降り注ぎ、住人の元へと届く。気の遠くなるような広さの天界に、住人の不満が募らないよう隅々にまで生気を行き渡らせるのは、確固たる能力の保有者でなければ至難の業である。


その大仕事を、ハクリュウはいとも簡単に、何ともわがままな理由で放棄してしまった。


『いとも簡単にとは、なんと無礼な。』
と、ハクリュウが聞いたら憮然とするに違いないだろうが。