竜王様のお約束
そして、この部屋の中にはもう一人、ただならぬ動揺を見せる者がいた。言葉も発せられないほどの驚愕は、心臓を鷲掴みにされるかのような痛みさえ伴うものであった。


『なぜリョク様は、突然このような事を言い出したのだろうか・・・。
思いつきにしては、お遊びが過ぎる。』


「コクリュウ・・・大丈夫か?」


焦点の合わない黒い瞳に危機感を覚え、コウリュウは隣に佇むコクリュウを気遣った。


「わ・・・訳が分かりません・・・。」


ポソリと呟いたコクリュウの声には、抱えきれないほどのハテナが詰まっている。訳が分からないのは、全くの本心であり、嘘偽りのない感情であった。


『この僅かな時間を共に居ただけで、どうして俺の妻になりたいだなんて言えるんだ?』


そんな被害者とも言えるコクリュウに、無論、ハクリュウの怒りの矛先は向いてしまう。


「コォクゥリュウゥゥゥ!!」


地響きが鳴ったのかと思うほどの重低音が、深紅の部屋を揺さぶった。


「貴様ぁ〜、俺のかわいい娘に何をしたぁ〜!」


正真正銘の濡れ衣であり、無実の罪を着せられた可哀想なコクリュウは、突然鳴り響いたハクリュウの激に身を縮めた。咄嗟のこととは言え、怯えた姿を見せてしまったコクリュウは、ハクリュウに更なる疑惑を持たせることになる。


「よくもリョクをたぶらかしたな!」


・・・完全に、冤罪である。
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