竜王様のお約束
ジュウゴ
ずっとまぶたを閉じて、イオリは部屋の隅に立っていた。コウリュウのあの言葉を聞くまでは、イオリも冷静にこの場に立っていることができたのに、今のイオリは違う。


何も考えたくない、これ以上何も聞きたくない。イオリは一刻も早く、この場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。


息が詰まりそうな部屋の中の静けさが、イオリの胸をイヤという程締め付ける。考えたくなどないのに、先ほどのコウリュウの言葉が、イオリの頭の中で何度も何度も繰り返えされて、どうにかなってしまいそうだ。


今すぐにでもこの部屋から出て行きたいイオリなのだが、足がすくんで動かない。


「イオリ。」


不意に静かな室内に、コウリュウの声が響いた。


「は・・・い・・・。」


今ほど、自分の名を呼ばれたくない時はないのに・・・。


イオリは力なく返事をして、深紅のソファーに座る主に視線を移す。膝の上で両手を組み、ぼんやりと床を眺める主の姿は、心なしか緊張しているようにも見えた。


「イオリ。」


コウリュウはもう一度静かに呟いて、ゆっくりと顔を上げる。
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