記念写真
「なぁ・・・・澪。俺のこと忘れていいからな」



総一朗はそう言った。



桜が散り始め、緑の葉が混じり始めた頃だった。



「ねぇそっちいってもいい?」



会話するための受話器を握りそう言った。



「いいよおいで」総一朗が微笑む。



無菌室に入り枕元に座る。微熱が続いている総一朗は触れなくても熱が伝わってきた。


「結婚しようよ。ここで永遠の愛を誓うの」


私はそう言って総一朗の手を握った。


「忘れていいって言ってるじゃん」そう言って笑った。


「総一朗は私が生きている間ずっと記憶の中で生き続ける。私と一緒に」


そう言って額にキスをした。


総一朗は私の額にもキスを返した。


そして二人でおぼろげな誓いの言葉を交わし合い、携帯で記念写真を撮った。


寄り添い笑い合って。




この温もりはあと少しで消えてなくなる、そんな想いを笑顔で隠して。





総一朗は桜とともに消えてなくなった。









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