恋の扉をこじあけろ

「あと、思い出したことがひとつあります」


「へえ、何?」


気を取り直して人差し指をたてると、松居先生が片眉をあげた。


「わたしが前に病院に電話したとき、間違って違う人に繋げられたんです」


わたしが的井先生と言ったのを、受付の人が聞き間違えて違う人にまわした。


「あなただったんですね」


『松居先生』だったし、確かに声もこの人のものだ。

だから初めて会ったとき、どこかで聞いた声だと思ったんだ。


思い出したのは数分前だったけど。


「よく覚えてたな、偉い偉い」


松居先生は笑いながら、わたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。

わたしはその手を払いのけ、松居先生から距離をとった。


「やめてください、子どもじゃないんですから」
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