恋の扉をこじあけろ
そう言ったわたしに、松居先生はふいに真面目な顔になった。
「子どもだろ。過去を乗り切れないでいる、ただの子ども」
わたしは眉を寄せた。
何を言っているんだろう、この人は。
わたしのことなんてよく知りもしないくせに、子ども呼ばわりするなんて。
過去って、どういうこと?
この人はわたしと何か関係があるの?
混乱するわたしの頭に、松居先生が手を乗せた。
距離をとっていたのに、いつのまに詰められたんだろう。
振り払いたいけど、松居先生の意味ありげな表情に引き込まれて、動けない。
閉院時間が近い病院の廊下はすでに薄暗く、わたしの不安と同調する。
松居先生がわたしの耳元に顔をよせ、小さく囁いた。
「俺は幸宏の兄、だよ?」