恋の扉をこじあけろ
「牧原さん?」
わたしのよく知っている声が、わたしの名前を呼んだ。
同時に松居先生がわたしの頭から、ぱっと手を離した。
「……」
放心しているわたしは、顔はそちらに向けたものの声が出せないでいた。
まといせんせい…
「的井先生、どうされました?」
松居先生がわたしの代わりに答えた。
「下田先生がお探しですよ。先生の手が空いてませんでしたから、代わりに探していたんです」
「はあ、またですか」
大げさにため息をつくと、やれやれと首を振りながら松居先生は立ち上がった。
「またね、琴乃ちゃん」
ぼんやりと見上げたわたしの肩をぽん、と叩いて、松居先生は薄暗い廊下の奥に消えていった。