恋の扉をこじあけろ
松居先生の足音が遠ざかるのを聞きながら、今まで松居先生が座っていた場所を見つめていると、影がわたしを覆った。
「牧原さん」
顔をあげると、的井先生がわたしのそばに来ていた。
先生はしばらくの間、眉を寄せて口を結び、心配しているのか怒っているのかよくわからない顔をしていた。
「牧原さん…診療時間はもう終わりだよ」
やっと開いた口から出た言葉に、そういえばそうだとぼんやり思いながら、バッグを手にゆっくり立ち上がった。
「松居先生に何かされた?」
的井先生の心配そうな声に、首を横に振った。
「いえ」
ただ、
自分の弱さを思い知らされただけです。
「心配をおかけしてすみません」
ぺこりと頭を下げて、そう言うのがやっとだった。