恋の扉をこじあけろ
冬実は頬杖をつきながら口を尖らせた。
対するわたしは、もじもじと体をくねらせる。
「だって…、冬実も知ってるでしょ?私が大学入ってから全然恋してないって。もう約二年、何のときめきも感じなかったわたしがよ?恋なんてそんな簡単にできない!」
「別に本気で恋しろなんて言ってないでしょー。遊びよ遊び」
冬実がなんてことないように手をひらひらと振って、わたしはぽかんと口を開けた。
「あ、遊び?」
聞き間違い?
だけど冬実は、にっと笑って頷いた。
「そうよ。この人が好きって、自分に思いこませるの。頭のどこかでは嘘だってわかってるうえでね。そしたら、その人に会いに行くのが楽しくなるわよん」
いつもこんなことをしているのかは冬実は。
「病院に行くのが面倒なら、先生に恋すればいいんだよ。そうしたら病院にいくのが楽しみになるから」
「そんな簡単にいくの?」
「騙されたと思って試してみてよ」
冬実は慣れていないウインクをしてみせて、次の講義があるからと言ってまだ食べ終えていない私を置いて学食を出て行ってしまった。
わたしはすっかり冷めたご飯をもそもそと口に運んだ。
冬実はあんなこと言うけれど…
好きじゃないのに好きな振りするなんて、先生に対して失礼じゃないだろうか。
それに恋遊びだなんて、簡単にできそうにない。
はあ、と深いため息を漏らした。