恋の扉をこじあけろ
コートの襟元を握りしめながら、大学病院の綺麗な白い建物を見上げた。
この病院で、的井先生は働いている。
この中に、的井先生はいる。
髪を荒々しく靡かせる冷たい風に追われるようにして、なんとか病院内に足を踏み入れた。
受付の女性に保険証を提示するとき、手が小さく震えていた。
何食わぬ顔で手に息を吹きかけ、寒さでかじかんでいるふりをした。
女性は何も気に留めずにいつもの笑顔でわたしに診察表を渡してくれた。
待合室の椅子に座って、ふと診察表に視線を落とした。
診察表に記されている担当医の名前を見ると、心臓がドキドキと鳴り始めた。
このドキドキは何のドキドキなんだろう。
怖いから?
緊張しているから?
会いたいから?
会いたくないから?
恋しているから?