恋の扉をこじあけろ
そのあとはいつも通り治療を終え、次の診察の予約をして先生とお別れ。


コートに身を包んで、寒空の下を一人歩いた。


いつも以上にさびしく感じてしまうのは、わたしが欲張りになってしまったからなのだろうか。


もっと一緒にいたいけど、先生は次の患者さんを診なくちゃならない。

きっと今頃、次の患者さんと一緒にいるんだろう。


嫌だな。

男の人や、お年寄りだったらまだ我慢できるけど、若い女の人を診てたらどうしよう。


それも魅力的で、美人で、ほんのりといい香りがする人。


先生が、その人の頬に触れて、唇に触れるのがわたしの頭の中で勝手に映像化された。


急に浮かんできた映像を消すために、ふるふると頭を振ると自転車に乗ったお兄さんが通り過ぎ様にこちらを見てきた。


たとえゴム手袋ごしであっても、嫌だ。


誰にも触らないでほしい。


わたしだけを触ってほしい。



わたし以外の、誰も診察しないで。





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