恋の扉をこじあけろ
わけがわからなくなりながら、なんとか先生のあとについて行った。
診察台に座っても、先生はちゃんとわたしと目をあわせてくれない。
何…?
どうしたの、先生…
嫌な予感が胸の中でぐるぐると湧き出してきて、指先が冷たくなってきた。
先生はマスクをつけると、やっとわたしを見てくれた。
「実は、今年度でこの病院を去ることになりました」
「え…」
先生は事務的に、淡々とわたしに告げた。
「先生、違う病院に移るってことですか?」
「市内のほうに」
先生は頷きながら、それだけしか答えてくれなかった。
「今日は後任の担当医との引き合わせをします。…先生、どうぞ」
わたしの後ろから、誰かがブース内に入ってくるのを感じてそっと振り返った。
その人物に、目を見開いた。
「松居先生…」
「よぉ」