恋の扉をこじあけろ
先生は片手でそれを持ち、アゴの部分をカクカクと上下に動かしてみせた。
「ふつうなら、こんな風にスムーズに関節が動くんだけど、牧原さんの場合は…あっ」
ころんころん、と
頭蓋骨の模型から歯がいくつか抜けて、床に転がった。
「ごめん、ごめん」
先生がそう言って拾ったそばから、別の歯が抜けて転がった。
おかしくてつい笑うと、先生も笑った。
「牧原さんの場合は、顎を動かすと歯が抜けるわけです」
「違いますー」
違うねぇ、と言いながら頭蓋骨に拾った歯を装着し、またアゴを動かした。
「牧原さんの場合、ここのところが…」
そう言って、関節のあたりを指差した。
「こうやって、途中で止まってしまってるのかもしれません。引っかかってしまうから、開かないのだと思います」
今のところは、と最後に付け加えた。