恋の扉をこじあけろ
きゅっと頬を抓られた。
地味な痛みにあわてて飛びのき、抓られた頬を擦った。
「だって、まさか冬実が川崎さんのことを好きになる日がくるだなんて思わなかったんだもん」
あの川崎さんを。
便利なもの扱いしていた川崎さんを。
冬実は目を点にしてわたしを見ていたけど、みるみるうちに顔が赤くなっていった。
え…
嘘、
冬実…?
「冬実…」
「私もまさかとは思ったわよ。だけど…どうしようもなくなって…好きだって気づいたら、その」
狼狽える冬実に今度はわたしの目が点になる。
こんな冬実は初めて見るかもしれない。
いつも自信満々で、活発で、秀才の冬実が、狼狽えることがあるだなんて。
冬実はわたしのぽかんとした視線に気づくと、はっとして頭をふるふると振った。
「か、川崎さんなんかのことより…!的井先生は、どうなったの?」