恋の扉をこじあけろ
先生は頭蓋骨ちゃんの顎を使って、わたしにきちんと説明してくれた。
「ここがこう…あんまり後ろにいかないみたいです。口が開かないことに関係あるかはわかりませんが、一歩前進ですね」
顎の構造がよくわからないわたしにはあんまりよくわからなかったけど、一歩前進なのか。
よかった。
ほっと息をついていると、先生は頭蓋骨ちゃんを棚の上にそっと置いた。
今日は歯が抜けなかった。
「これからの治療なんですが、スプリントというものを使っていこうと思います」
スプリント?
わたしが首を傾げたのを見て、先生が見本を持ってきてくれた。
「こういうの」
先生に手渡されたものを、じっくりと見た。
硬くて、透明で、ヒトの顎を模ったものみたいだ。
「マウスピースみたいなものです。とりあえず、これで顎にかかっている負担を減らしてみようと思います」
先生はパソコンに手を伸ばし、次の予約はいつがいいか聞いてきた。
どうやら今日の治療はこれで終わりみたいだ。