恋の扉をこじあけろ

いつも的井先生が座る場所に、実習生が座った。


「水しぶきがかかりますから、タオルかけますね」


可愛い声でわたしに声をかけ、口のところだけまるく穴があいたタオルをわたしの顔にかけた。


そしてこの前先生がしたように、歯磨きをし始めた。


けど。



やっぱり慣れていないから下手くそで、動きがたどたどしい。

おまけにこんなに水が飛ぶものかというほど水しぶきが頬にかかった。

タオルをかけているにもかかわらず。


先生はやはりベテランなんだなあとひしひしと感じつつ、はやく終わることを切に願った。


「お疲れ様でーす」


彼女の言い方に美容室でシャンプーをしてもらったときの、若いアシスタントを思い出した。

何はともあれ、歯磨きが終わったことにほっとしながら口を濯いだ。

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