恋の扉をこじあけろ
声がした方を見ると、冬実がスーツケースを持って立っていた。
わたしと男の人を見比べると、顔を険しくしてつかつかと大股で歩いて来て、わたしの手をとった。
「琴乃、なに怪しい男になんか捕まってるの!」
「失礼だな。別に怪しくなんかないのに」
冬実は構わず、わたしの手を引っ張った。
「行こう、琴乃。話があるの」
それを見た男の人が冬実を引き止めた。
「こっちの話が終わってないよ…」
「タカノリ!」
廊下を急いでやってくる人影がみえた。
白衣を着た男の人。
「ああ、下田先生」
しまった、という顔をして、タカノリと呼ばれた男は額に手を当てた。
「もう時間だぞ。こんなところで何をやってるんだ」
「すみません、今から行きます。…またね、琴乃ちゃん」
そう言って謎の笑みを残して下田先生に着いていってしまった。
なんでわたしの名前を知ってるの?
…ああ、冬実が大声で叫んだからか。