恋影
武市の指示で、互いに木刀を構える。
「始め!」
太鼓の音を合図に、両者が床を蹴った。
「はぁーーーーっ!!」
「へへっ!」
正面から突っ込んで来る薫子を見透かしたように笑いながら、上段の構えから勢いよく振り下ろす。
「!」
「なっ……!」
寸前のところで交わし、今度は背後から突っ込まれる。
「うっ!」
「くっ!」
互いの刀が交じり合う。
しかし、力の差は歴然だ。男である弟子に敵うはずもなく、薫子はあっという間に弾き飛ばされてしまう。
「あっ…!」
その瞬間に、薫子から血の飛沫が上がり、そのまま床にたたき付けられてしまう。
「!!」
「うっ…!」
武市は待てをかけ、薫子に駆け寄る。木刀で防いで、入りはしなかったが、霞めたようだ。
額が切れてそこから、血が流れ始めている。
「すぐに止血をする!誰か、血止めの薬を持ってこい!!」
弟子達に呼び掛けるが、それを制するように薫子が、武市の裾を掴んだ。
「……だ、大丈夫です…!まだ、やれます……!」
「何を言っているんだ!身体と顔の傷は違うのだぞ!?」
身体でも痣だらけというのに、今度は顔にまで傷をつくるわけにはいない。
「額がちょっと切れただけです!最後までやらせて下さい!お願いします!!」
流れる血を拭うこともなく、薫子は立ち上がり真っすぐと、弟子を睨みつける。まるで、必ず勝つと言わんばかりに。
勝てるはずもない相手に、立ち向かうことは本意ではないが、身を守るだけで終わらすにはもったいないほどだ。
めったに望みなど言わない子供が、それを望んでいるのならば、最後までやらせるしかない。
武市が許可を出したことで、試合はその場から再開された。
「はぁーーーっ!!」
今度もまた突っ込んで行く薫子、弟子も形を変えようとはしない。
向かってくる薫子に木刀を振り下ろすが、交わされ、一度目の突きで弟子の木刀に当て、そのまま勢いに乗って突っ込む。
「うわっ!」
相手が後方に体制を崩し、木刀を振り下ろすが薫子に当たることはなく、
「やぁーーーー!!」
「!!」
薫子の木刀が弟子の胸を勢いよく突き、弟子は地面にたたきつけられるが、薫子はその木刀を弟子に振り下ろそうとする。
「うっ…!?」