恋影



振り下ろそうした木刀は、後ろから武市が掴んで止めていた。


「ううっ……!」


木刀を離そうと力をいれるが、それが離れることはない。


むしろ、今まで向けられたことのない優しい顔で、武市が薫子を見下ろしていた。


「……やめなさい、薫子。お前は勝ったんだ。」


「勝った……?」


気がついてみれば、弟子は気絶して倒れており、周りはそれを心配しているようであった。


「…………。」


改めて自分が勝ったのだと認識する。


「……よく頑張ったな!さすが、僕の娘だ!」


「!」


武市が小さな薫子の身体を抱きしめていた。


「娘……?私……、旦那様の娘なの……?」


「ああ、そうだ!立派な娘だ!!」


「…なら、もう我慢しなくていいんですね?」


「そうだ、薫子。」


「……うっ、ううっ……うわーん!!」


薫子は火がついたように泣き出した。今まで張り詰めていたものが、一気に切れたようだった。


武市は黙ってその小さな身体をあやし続けた。












それからというもの、薫子は正式に武市の養女となり、道場の弟子達にイジメられることもなくなった。


武市は薫子を可愛がり、色んな場所へと薫子を連れて行った。


だが、時々山の方を見つめる薫子の姿に、胸が痛んだ。



「ほな、それは良かったわい!一時はどうなるかと思ったけどな!」


久しく龍馬が酒に誘って来たので、二人で飲みに町へ出ていた。


お尋ね者のため、あまり遠くまではいけないが、夜ならそう目立つこともなく、こうして道を歩くことが出来る。


「それで、薫子ちゃんは留守番か?」


「ああ、こんな場所に出歩かせるわけには行かないだろ?」


「それもそうやのう。じゃが、薫子ちゃんも大したものじゃ!あげな大きな子を倒したのじゃからな!」


「ああ。」


一連の話しを龍馬に伝え、龍馬も安心したようだ。


「そういえば、奴らの情報はどうなっている?何か掴めたか?」


「……掴めたいうより、おかしなことが起きていてのう。」


「おかしなこと?」


「ああ、最近辻斬りが相次いでいてのう……。なんでも、若い男を狙っておるそうなんじゃ。」


「若い男……?女ではないのか?」


「ああ、しかもその刀は必ず引き抜かれておる。」


「!………奴らか?」


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