恋影
「それは分からん。なにせ辻斬り連中と言えば、不定浪士でもやるからのう。もう少し詳しく調べてはみるが、くれぐれも気をつけるんじゃぞ?」
「ああ、分かっている。」
「薫子ちゃんも大変じゃのう。ただの辻斬りだけであって欲しいが……。」
ふと龍馬が夜空を見上げる。何処に行っても物騒な世の中だ。
それに幼い薫子が巻き込まれていると考えると、やり切れなくて堪らない。
「………?」
「どうした?」
武市が歩みを止め、暗闇に閉ざされた角を見遣る。
何かが光っている……。
「……!」
白く光るものから、赤いものが滴り落ちている。
間違いない。例の辻斬りの者達だ。
刀の柄に手を構え、ゆっくりと近づこうとすると、一瞬早く向こうがこっちに気づき、闇の中へと行ってしまう。慌てて追いかけようとしたが、すでに誰もいなかった。
「取り逃がしたか……!」
「……ここら辺はもう危ないな。早いとこ帰ったほうがええ。」
嫌な予感がし、武市は急いで帰路にたった。
「はぁはぁ……!」
家に着く頃には、夜がすっかり更けていた。
「!」
家の庭を見てみれば、何かの奇襲にあったように、派手に荒れていた。
「薫子…!薫子…!!」
慌てて家の中へと入り、薫子の姿を探す。しかし、部屋は物家のからで薫子の姿は何処にもなかった。
「薫子……!」
武市は家を飛び出し、坂本家へと向かった。
一方、坂本家ではすれ違うように来客があったようだ。
「乙女姉さん、こげな時間に来客があったんか?」
「なんでもな 会津のお方みたいなんやけど、【白菊一】ちゅう刀を探しとるとかで、訪ねてきたんや。ほんま、こんな夜中に迷惑な者やな……。」
「【白菊一】……?姉さん!それはまっことの話しか!?」
「ええ そうや。辻斬り犯も捕まえる言うてたけど、どうなんやろうな……。って、なんであんたがそんなに驚くんや?」
答えるより先に龍馬の足が早く動いていた。
「ちょっと龍馬!待ちいや!!何処に行くんや!?」
乙女姉さんの止める声も、龍馬の耳には届いていなかった。
乙女姉さんの話しが本当なら、武市達が危ない!!せっかく助かった命を、また危険にさらすことになる。龍馬は武市の家へと全力で夜の町を走って行った。
「はぁはぁ……!」