恋影
お互いの家まで、かなりの距離がある。日頃ならなんてこともない道のりも、今はすごく遠くに感じられる。
「はぁはぁ…!」
今は一刻も早く合流しなければならない。夜の町を懸命に走り続ける。
すると、角を曲がったところで誰かにぶつかってしまう。
「!!」
「すまん…!急いどったも………武市!?」
「龍馬!!」
あろうことか、こんな所で合流するとはお互いに思ってもみなかった。
「おま!どうして ここにおるんじゃ!?薫子ちゃんはどうした!?」
「大変だ!薫子が奴らに連れて行かれた!!」
「なんじゃって……!?」
嫌な予感は見事に適中していた。
「はぁはぁ……!」
見知らぬ山道を懸命に走り続ける。そのすぐ後ろからは、鬼の仮面を被った者達が追いかけて来ていた。
もう来た道なんて分からない。
ただ、ひたすら走り続けるだけ。
龍馬と武市は遅れて、山道を駆け上がっていた。
薫子を捕まえたなら、間違いなく【白菊一】を手に入れるために、この山を登るに違いない。
とりあえず、奴らが逃げられないように、坂本家には連絡をして、土佐を包囲するように言ってある。
とにかく、全力で走って奴らに追いついて、薫子を救い出さななければならない。
二人は全力疾走で山を駆け上がった。
「………!」
ふいに龍馬の足が止まる。
「どうした?」
「シッ…!何かおるぜよ……。」
「!」
辺りの気配が変わったのを感じる。姿は見えないが殺気を立てている。
二人は辺りを警戒しながら、気配がするほうへと近づいていく。
すると、暗闇から人影が何体も姿を現し始めた。あっという間に二人は囲まれてしまう。
しかも驚くことに、奴らは鬼の仮面を被っていた。
「……なるほど、君達が辻斬りの犯人か。」
「いかにも。その通りだ。」
「……刀を探すという名目で来たそうじゃが、そういうことをしとるということは、藩の密命を受けた密偵か?」
「そうだ、我らは会津藩の者だ。」
「会津藩……?自分達で身元を明かすほどの者が、密偵とは考えにくいのだかな?」
密偵にしては正直すぎる。しかも密偵がこんな場所で姿を現すとは思えない。
「なんと言おうと関係あるまい。おい!」
「!」
「薫子ちゃん…!」