恋影
奥の方でぐったりと男に抱き抱えられている薫子がいた。
「くくく……、やはりな…。お前達はこの娘を取り返しに来たのだな。最近やたら、我らを嗅ぎ回る者がいて困っていたが、お前だったとはな、土佐藩主の弟・坂本龍馬。」
「……!」
「お前らの目的はなんじゃ!!小さな子供に乱暴しおって…!」
「小さな子供……?ああ、この娘か?この娘はお前達が思っているほど、子供ではないぞ?」
「何がいいたい?」
「こいつは日本最古の人種【猫人族】だ。」
「!」
「【猫人族】……。」
【猫人族】とは古代から存在する人とは非なる存在で、人間よりも遥かに優れた力を持った人間のことだ。
それゆえに時の人間の権力者達に、その力を貸すようにと言われてきていたが、それを断り続け、今やその姿は消しつつあった。
その【猫人族】が、薫子だというのだ。
「それにこいつは、【早瀬家】の猫人族の中でも力を持っている娘だ。だから、お前らに心配されるような、娘ではないのだ。」
「だからと言って、幼子に手を出していいとはいいものではない!すぐに薫子を返してもらおう。」
「これは我らの問題だ。部外者は黙っていてもらいたい。」
「そう都合よく、はいそうですか って引き下がれる話しではないがな。」
刀を抜き相手に構える武市。
薫子がどんな子供でも、約束をした子供を簡単に手放すわけにはいかない。
【猫人族】ならなおさらだ。それゆえに、薫子は悲痛な体験をし、今なお命を狙われているのだから、ここで渡してしまえば本末転倒もいいところである。
「まったくじゃ。たかが刀を探すために無実の者を殺して、今度はそげな幼い子供を殺すとは……それが会津のやり方とは情けないのう……。」
龍馬も話しを聞いて呆れながら、刀を構える。いくら、討伐を失敗したからと言って、こんなこと許されるわけがない。
刀はともかく、薫子だけは助けなければ。
「別に殺すわけではない。ただ、【猫人族】の力をみるだけだ。この娘は今言ったように特別だからな。」
「力をみる……?ふざけたことを……。その子は最近まで、竹刀も振るえなかったのだぞ?そんな相手はお前達の相手にもならないだろう。」
「いかにも、人間相手ならそうだろう。だが、この娘は我らが探していた【白菊一】を持ってこそ、その力を発揮するのだ。」