恋影
第二章
ーー数年後。
京の町に【花町街】という場所がある。
夜になると、綺麗に身を着飾った舞妓達がやって来る客人をもてなし、ひと時の楽しみを味あうのだ。
ここ【島原】もその一つである。
夜になると女を目当てに来る客が後を絶つことはない。一番上の【大夫】(最上級の遊女)から、一番下っ端の【新造】(見習い妹各の遊女)まで、休む暇もなく足を運び続ける。
そんな中、一人の芸妓が自分の妹各の者を捜し歩いていた。
「【白鳴】!白鳴ーー!」
「【明美】姐さん どうかなさいましたか?」
白鳴と同じ見習いの娘が尋ねてきた。
「白鳴は?白鳴を知らぬか?」
「白鳴でしたら、裏庭にいましたよ?」
「裏庭に……?」
急いで裏庭へと行くと、白鳴がたくさんの食器を一人で洗っていた。
「白鳴!」
別の場所から同じ見習いの格好をした者がやって来る。
「なんですか?」
「これも洗っていてちょうだい。」
「えっ……?」
「あと、あそこの台所も綺麗にしておくのよ!いいわね?」
「………。」
「返事は?」
「……はい。」
「本当、生意気な子……。」
吐き捨てるように言うと、その者は中へと入って行った。
白鳴は他の者とは違い、途中から入って来た娘だ。だから、同じ妹各でも皆より、下にみられていたのだ。
他の者達はそんな白鳴が、自分達と同じように扱われるのが気に入らないのだ。
明美は他の娘達がいなくなるのを確認してから、外へと出て白鳴に近寄る。
すると、食器を洗っていた白鳴が不意に、手を挙げて、指先に伝う雫を見つめていた。
雫が月明かりに照らされて、墜ちていく様もとても綺麗だ。
「白鳴…。」
「あ、明美姐さん!!」
慌てて振り返り、前掛けで手を拭う白鳴。
今まで明美には何も言わずにここにいたのだ。姉各の芸妓に従わないのは、もってのほかだ。白鳴は明美に怒られるのを覚悟していた。
「……今までここにいたのか?」
「はい……。」
「……これを全部お前が片付けていたのか?」
「はい……。」
明美は洗った食器を手に取って見る。おそらく、もっとたくさんの物を一人でこなしているに違いない。
「なるほど……。最近、お前が私の前に姿を見せないのは、このためか…。他には何をさせられている?」
「………。」