恋影
追い掛けて来た男が、咲子を止めに入る。
「この子になんの罪があると言うんだ!?」
「何を言ってんだい!あんたがあんなことにならなければ、私達もこんな暮らしをしなくてすんだんじゃないかい!!こんな子を養うだけの余力が、この家にあると思うの!?」
「……!」
そうだ……。
妻の言う通りだ……。
これ以上何も言えない。可哀相だと思っても、それを止めるだけの力がない……。
地面に倒れていた少女は立ち上がり、桶と雑巾を持った。
足取りはまだフラフラしていた…。
「……行ってきます。」
「!」
土間の扉が寂しく閉まった。
それから程なくして、とある男が家を尋ねて来た。
「おう!【武市】!元気にしちょったか!?」
ニコニコと蔓延の笑みで、男は武市が座る縁側へとやって来た。
「【龍馬】か…。」
「相変わらずしけた面をしとるのう?ちゃんと、飯は食っとるのか?」
「ああ、お前のお陰で食うには困っていない…。」
「ほうか、なら良かったぜよ!」
「【坂本家】の方にも、一度出向かわなければならないな…。」
「ああー!気にせんでいいきに!兄上はそんなに器の小さな男やないき!」
誇らしげに笑う龍馬。
彼はこの【土佐藩】の藩主の弟であり、武市の親友でもあった。
【武市家】が指導各の怒りを買い、一族が皆殺しに合うところを、坂本が助けたのだ。きっと、色んな根回しをしたに違いない。そんなことを微塵も感じさせない男だからこそ、武市は助けを求められたのだと思う。
「それより、おんし助けたい者がおると言っておったが、助けられたのか?」
以前に、龍馬に助けを求める時に、そう言っていたのを思い出す。
「ああ……。なんとかな。」
「ほうか…、それにしては暗いのう?助けた者になんかあったんか?」
「その者と言うより、咲子にだな…。」
「もしかして、咲子さんはそん人を受け入れてくれんのか?」
「ああ……。元々子供好きだった人柄が一変したように、変わっているよ。」
「そ、そん人は子供なんか!そりゃあまた、たまげたのう!武市が子供を救うのに、あげ必死になるとは……。よっぽど、信頼しとった方の子供さんなんじゃろう。」
「ああ、まだあどけない女子だ。」