恋影


「黙っていないで言え。稽古も出来ぬほど、他に何をさせられている?」


「……洗濯や炊事、甘露梅作りなどをやっています……。」


「じゃあ、お前がほとんど雑用をやっていると言うことか?」


「はい。」


「そうか……。なら、仕方ないな。今日はもういい。明日の早朝に、また裏庭へ来なさい。」


「え……?」


「もうすぐ、昇格の試験がある。その試験に通れば、お前は位を授かり、一人前の芸妓となれるのだ。こんなことをしていては、芸妓にはなれん。」


「…………。」


「分かったら、さっさと早朝に間に合うように、仕事を済ませてしまいなさい。」


「わかりました。」


早朝というのは、皆が仕事をし終え、寝静まる時だ。この時ばかりは邪魔が入ることなく、稽古が出来るのだ。


日中は他の者達も起きてくるため、白鳴が稽古をするのならこの時しかない。


白鳴は早朝に間に合うように、押し付けられた仕事をこなすのであった。









勝手場の掃除から洗濯までこなし、繕い物を終える頃には、夜明け前となっていた。


夜も更けた帳となる時刻。


慌ただしかった足音も今は聞こえない。


少しの間眠っていた白鳴は目を覚まし、皆がいないことを確認すると、こっそりと抜け出し、日中に皆が使っている稽古場へとやって来る。



見つかるとまずいので、足元を照らすのは月明かりのみである。


立ち位置に立つと白鳴は、腰から扇子を取り出し、バッとそれを広げた。


月明かりに照らされて、踊る様はまるで月から舞い降りた天女のようだ。


日中は稽古が出来ないため、この時刻に白鳴は稽古をしていたのだ。



一通り踊り終えると、窓から月明かりが見えた。


そして、拍手が聞こえてくる。


「……!」


「……やはり、お前だったのか。」


「明美姐さん……!」


「毎夜、いなくなっていることは知っていた。稽古を目的として言ったが、この分では問題がないだろうな。」


「そう言って頂けると嬉しいです。」


「ところで、お前の舞いは独特だな。何処で覚えたのだ?」


「自分で作りました。」


「なんと……まあ。で、どんな意味の舞いだ。」


「月明かり、桜、……すべてに生きる女の舞いです。」


「なるほど、してその扇は?それも独自の動きか?」


「はい。……刀を現しています。全てを無に帰す刀です。」


「!!」
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