恋影
明美は慌ててそれを白鳴の手から取り上げた。
「明美姐さん……?!」
「その舞いはやめよ!!芸妓が名誉ある刀の舞いをしてはならぬ!」
「!」
「………してはならぬのじゃ…。」
「………。」
物苦しそうに言う明美。何かを隠しているようだが、それは白鳴には分からない。
「……とにかく、その舞いは誰にも見せてはならぬ。良いな?別の舞いを私が教えてやるから、お前はそれを踊りなさい。」
「……はい。」
明美はその踊りが、白鳴の運命を狂わすことになるのを恐れたのだ。
数年前に、武市から託され血まみれになっていた、哀れな子供……。
女として生きるために、狂われた運命を封じるために……。
それを今更、壊すわけにはいかないのだ。
明美は立ち位置に立つと、【白鳴】となった娘を見据える。
「……行くわよ。」
「はい。」
いつの間にか芽生えた愛情……。
出来ればこのまま、何も起こらないようにと祈った……。
白鳴はいつものように仕事をこなし、試験の日が近くなるにつれて、明美と共に座敷に上がることも多くなっていた。
もちろん、お客の相手をするわけではない。側で三味線を弾いたり、琴を奏でたりして、その場の雰囲気を盛り上げるのだ。
白鳴は他よりも笛を吹くのが上手かった。いつものように、笛を奏でていると、ふいに目の前が暗くなる。
「……?」
顔を上げて見ると、そこには今までお酒を呑んでいた者が、白鳴の前に立ち見下ろしていた。
みるからにかなり酔っている。
「……なんでしょうか?」
「お前、新造か…?」
「……そうですが、何か?」
「見かけない顔だが、身体付きは良さそうだ。お前、俺の相手をしろ。」
「お言葉ですが、私はまだ位を持っておりませんので、お客様のお相手をすることは出来ません。」
「生意気な。俺はこう見えても立派な侍なんだぞ?その俺が相手をしてやるって言ってんだ、素直に喜んだらどうだ? どうせ、もうすぐ水上げだろうが、早いか遅いかの違いだけだ。文句を言わずに来い!!」
「!!」
手を掴まれ強引に表へと出される。
「白鳴!」
とっさに明美も止めに入ろうとするが、それよりも早くに、白鳴は近くにあった煎れたての熱燗を、その男にぶっかけた。
「やめて下さい!!」
「……っっ!!」