恋影
明美が白鳴の近くまでやって来る。
「あなたは私が、初めて心を許せた相手だったわ。まるで妹が出来たみたいに、嬉しかった……。なのに、あなたには何もして上げられなかった……。辛い時苦しい時、助けを差し延べてあげられなかった……。」
ポタポタと雫から畳みにこぼれ落ちる。
「ごめんなさいね。何もしてあげることが出来ずに、ただ止めたり、しかるばかりで、とても辛かったでしょう。」
「明美姐さん……。」
今までの思いが溢れて来る。
ここへ来た時のこと、苦しい事があった時のこと……、嬉しいことがあった時のこと、すべてが思い出しては消えて行く。
「ごめんなさい、あなたに行ってほしくなくて、私はあなたを止めていたのよ…。」
それが明美の本音であった。
何処にもやりたくない、ましてや戦いの道など歩んでほしくなかったのだ。
それが分かっているだけに、白鳴も辛かった。涙が零れては落ちていく。
「ありがとう……ありがとう、明美姐さん。私、明美姐さんに会えて良かったわ……。明美姐さんがいたから、今の私があるの。私は、武市さんのもとへ、行くわ。」
それは震えていた決心から絶対への決意へ変わった瞬間だった。
互いにその決意を抱き、恐れや迷いがないように、定められた運命を受け入れるのだ。
「ええ、行って来なさい。行って、武市さんの役にたちなさい。白鳴……。」
「明美姐さん……!」
明美は初めてその胸に、可愛い妹を抱いた。互いに身を寄せ合い、離れる辛さ悲しさを受け止める。
そして、生きる願いを込めて、抱きしめる。
必ず生きて、生き抜くように……。
そのかせられた運命が解かれる日まで、どうか、どうか……無事でありますように………。
そう願い続けた……。
それから数日後……、
予定されていた通り、妹各の者達であった新造の昇格試験が執り行われていた。
(♪♪~~♪)
三味線の可憐な旋律が聞こえてくる。
年若い娘達が一人一人、前に出て舞いを披露していく。
試験だけあって、扇を手にした足裁きは見事なものである。
待っている芸妓達の間にも、緊張感がピンと空気が張り詰めていて、皆微動だにしない。
「ああ~~どうしよう…!緊張しちゃうよ……!」
白鳴の隣にいる桜が、しきりにソワソワしていて、話しかけてくる。