恋影




黙っているが、皆きっとこんな気持ちなのであろう。


「大丈夫よ。いつも通りにやるだけだから。」


「そんなこと言ったって……!緊張するものは、しちゃうよ……!」


「落ち着いて桜。大丈夫だから、あなたは絶対に受かるわ。だから、そんなに緊張しないの。」


「白鳴……。」


そうは言われてもやっぱり、緊張が隠せない桜。


そして、その時がやって来る。


さっきまで白鳴の隣で、駄々をこねたとは思えないような姿で、桜がお座敷の前に立つ。


凛としたその姿はまさに芸妓そのものだ。


「………。」


三味線の旋律と共に、桜が舞いを踊る。こんなふうには絶対になれない、こんなふうに華やかには自分は踊れない。


白鳴は目の前に広がる世界と、自分のいるべき世界を比べて、そう考えていた。


そして、


白鳴の番がやって来る。



重苦しい空気の中、封印されていたあの舞いを舞う。



月明かり……。


恋……。


すべての女達の思いを、踊りで表現をする。


対して、手に持つ扇子では、その逆の思いを表現し、それはまさしく刀を表していた。


白鳴の舞いには誰もが釘付けとなり、三味線の音や、太鼓の音が、しだいにやんでいく……。


窓から春風が吹き、桜の花びらを運んで来て、白鳴を優しく包んでいく。



これぞまさしく、舞いの舞い。



【桜吹雪】だ。



薄紅の花びらの一枚が、扇子と風にのり、再び青空へときえて行った……。







それからしばらくして、無事に試験は終わりを迎えていた。


見習い達は正座をしながら、その言葉を待つ。


「……お疲れ様でした。今日であたしらがあんた達に教える事は終わりました。明日からは、皆、お座敷に上がり、お客様に気に入られた者から、水上げをし、一人前の芸妓となるように。結果は後日、位別に発表いたします。」


「一同礼!」


指導者達に向かって、娘達が丁寧にお辞儀をする。


指導者達が部屋を出て行くと、娘達は緊張の糸が弾けたように、互いに喜び合う。


「ヤッターー!合格よ!」


「明日から一人前なのね!」


「あら、それは水上げをしてからでしょう?」


「ああ~~いい殿方がいたら、私抱かれた~い。」


「あら、私だって…!」


これからのことを夢見る乙女達。その姿はまさに、花も咲かない真っ白な蕾のようだ。


「白鳴ちゃん!」


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