恋影
「……?」
「明美姐さんが呼んでいるわよ。」
ついにその時が来たのだ。
白鳴は窓辺の席から立ち上がると、その場を後にした。
「それにしても、白鳴ちゃんの舞いすごく綺麗だったよ!上の人達も皆、白鳴ちゃんの舞いに見取れてたもん!」
「そう。」
青空の中、まだ誰も歩いていない街道を歩いて行く。
もう、こうして花街の仲間と一緒に歩くこともないだろう。
ふと、風が二人の間に吹く。
「あ、桜……。」
空を見上げる白鳴達の前に桜が舞い散る。
「綺麗……!」
「まるで、私達の運命ようね……。」
綺麗で可愛くて華やかさがあって、でもあっという間散ってしまう、悲しくて履かなくて、哀れな運命……。
これから、分けられる互いの運命を表しているようであった。
「絶対に立派な芸妓になろうね、白鳴ちゃん。」
「うん…。」
二人は明美のいる部屋へと向かった。
「明美姐さん、連れてきました。」
「試験お疲れ様、二人共。」
明美は変わらずに、二人に微笑んでいる。だが、同時にこれが別れを意味するのだ。
「桜、悪いのだけれど、お茶の用意をして来て貰ってもいいですか?」
「はい!」
返事をすると桜は部屋から出て行った。
部屋には白鳴と明美の二人となる。
「……もうすぐ、あの娘も私のもとを離れて、独り立ちをする…。」
「ええ……。」
時期に位を授かり、桜も一人前の芸妓となって行くのだ。
「……武市さん達の居場所が分かりました。」
「!」
「武市さんはこの都で、坂本さん達っ一緒に幕府と戦っているそうです。詳しいことは、行って聞いてみるといいわ。それと……、」
明美はずっと保管していた刀を、白鳴に差し出す。
「これを貴女に返します。」
「……【白菊一】!?」
それは、かつて武市が封印するように川底に沈めた薫子の刀であった。
まさか、この刀がまた自分の手に戻ってくるとは思ってもみなかった。
白鳴は恐る恐るその刀を手にする。
「過去に辛い記憶が残っていては、その刀は使えないと武市さんは言っていたわ。無理なら、新しい刀を新調してもいいのよ?」
「……いいえ、私はこの刀でいきます。この刀こそが、私の運命そのものなのです。」
「そう……。」