恋影
どんなに会いたかったか、どんなにこの日を待ったか、思えば思うほど言葉が出てこない。
「………。」
「………?」
「……やっぱり、浪士組の!」
後ろで以蔵が叫ぶ。
どうやら、以蔵は白鳴のことを間者だと思っているようだ。
「証拠があるのか?」
「へ……?」
「彼女が浪士組の間者だという証拠があるのか、と聞いているのだ。」
「えっ…!」
「彼女……?もしかして女の子ッスか!?」
武市の言葉に後ろにいた仲間の人がびっくり仰天をする。
「どっからどう見ても、女だろ。」
「まさか、浪士組に女の人がいたとは驚きッス!」
「あ、あの……。」
「そもそも、浪士組に女などいるわけがないだろ。刀が扱えたところで、所詮は女だ。着物を変えたところで密偵なんて出来るわけがない。」
つまり、浪士組はそんな安易な墓穴を掘る相手ではないということだ。これには白鳴を疑っていた二人も納得する。
「で、君はここで何をしていた?」
「あ……、そ、その……人を捜していて……。」
「人……?」
「ありゃあ…!おまん迷子か!」
「えっ…。」
「そうか、そうか!はぐれてしもうたんじゃのう!京の町は治安が悪いけい、それでわざわざ男装しとるのじゃろ!?」
ど、どうしよう……。
本当は武市達を捜しに来ました、なんて正直に言ってしまえば、また間者に間違えられるかもしれない。
それに、明美姐さんが事前に聞いた話しでは、武市達は何か大変な仕事をしていて、かなりの敵に囲まれているらしい。
迂闊に自分のことを話したりすれば、武市達の迷惑になるかもしれない。ここは、自分が【薫子】だったことは伏せておいたほうが、いいかもしれない……。
「……そ、そうです。その迷子です。」
ここは龍馬に話しを合わせておいた方が、懸命だ。白鳴はそう答えた。
「迷子なら仕方ありませんね。とりあえず、【長州藩邸】にでも行ってみましょう。【高杉】さんなら、何か知っているかもしれません。」
「迷子ならそれこそ浪士組では?」
「以蔵君!!」
「以蔵の言う通りじゃ。確かに、迷子なら京の治安を守る浪士組に頼るべきじゃが、ワシらが行くわけには行かんからのう。とりあえず、ワシらについて来てくれんか?」
「はい…!」
白鳴は龍馬達に連れられて、長州藩邸へと向かった。