恋影
武市は当然、咲子の部屋へと向かい、乱暴に襖を開け放つ。
「咲子!!お前はあの子に何をした!?」
怒鳴り込む夫を見ながら、咲子の態度が変わることはない。
「なにもしていないわよ。」
「なにもしていないだと!? じゃあ、あの娘の傷はなんだ?!全身痣だらけだったぞ!?」
「ああ……、あれね。あれは稽古よ。」
「稽古……?」
「そうよ。あの娘も私達の娘ならそれなりに鍛えないといけないでしょう?」
「娘…?お前今、娘と言ったか?」
「……?」
「娘ならなぜ、あの子が僕達のことを奥様や旦那様と言っているのだ?なぜ、あの子にあんなしつけをした?!あれでは娘ではなく、単なる雑用係だ!!」
「それを知っていて、貴方も目をつむっていたんでしょう?いいじゃないの、どうせいなくなる子供なんだから……。」
「いなくなる……? 遊郭にでも売ったのか?!」
「そうよ。あんな汚らしい子……。遊女で十分よ。」
「咲子!!」
その日のうちに、武市と咲子は離婚をした。元より結ばれる運命ではなかったのだ。若くして結婚したことで、こんな結末を迎えることとなるとは………。
あまりにも情けなかった……。
「……なるほど、そげなことがあったとか……。武市も辛かったのう……。」
「………。」
「まあ、おまん達は早かっただけじゃ。咲子さんもそのうち分かってくれる。それより、問題はあの娘じゃ。」
「?」
「咲子さんがおらんなった今、あの娘をどうするつもりじゃ?」
「………。」
男に女は育てられない。
ましてや、子育てなど本来は無縁のものだ。
「……わしの所で預かるっていうのは、どうじゃ?」
「え……?」
「乙女姉さんに、ちとばかし話しをしたんじゃ……。そしたら、そげなことなら喜んで預かる言うてくれてのう……!」
龍馬はずっと気にかけてくれてたんだろう。いざというとき、頼れるように……。
「そうだな……。そういえば、そっちの方はどうだ?以前は騒がしいと聞いていたが?」
薫子を助けた日から、生存者を捜して会津の者達が討伐のあった、山近辺を捜し回っていたらしい。
幸いにして、ここは離れの田舎だったので、追っ手は来なかったのだ。
「ああ、それがなちくと気になることを聞いてのう。」
「気になること…?」