恋影
「ああ、ちょうどおまんがあの娘を引き取った時からじゃった。【白菊一】という刀を捜しておると言っておった。」
「!」
「どうやらその者が持っとるらしくてのう。しばらく捜しておったわ。まあ、この村まではこんやろうが、あの娘のこともあるし…、少し警戒しとった方がええかもな……。」
「………。」
「ほな、わいはこれで帰るわ!もし、あの娘のことでなんかあったら、いつまでも相談にのるけいのう!」
「……龍馬!!」
門まで出ていた龍馬を呼び止める。
今の話しが本当なら、薫子を隠さなければならない。
「どうした?」
「………【白菊一】について話しがある。」
頼るべき時に頼るのが一番だ。
武市は薫子のことについて話した。
「そ、それは……!まっことなのか!?あの薫子ちゃんが……!!」
「そうだ……。」
実を正せば、武市も何も知らなかった。
ただ、討伐前にとある一族の族長から、もし何かあった時、【刀】を握る娘を助けてくれと頼まれていたのだ。
それがちょうど、薫子を助けたあの日で、薫子の手に握られていた刀こそが、奴らが捜している【白菊一】だったのだ。
特殊な名剣らしく、刀を知る武市も今までに見たことがなかった。
皆殺しにしてまで、手に入れたい名剣なのであれば、刀を握って逃げた薫子を奴らは逃がしはしないだろう。
必ず、刀を捜しにここまで来るはずだ。
「なら、あの娘を何処かに逃がさないけんのう……。それから、武市。あん子はどこまで知っておるんか?」
「どこまでとは…?」
「【白菊一】を持っていた子じゃ。何か重要なことを知っとるに違いない。」
「……それが出来ていれば、とうにやっている。」
「なんじゃ!聞き出せんとらんのか!?まっこと、しょうがない奴じゃのう!」
そこへちょうど、洗濯物を干しに薫子がやって来た。
薫子は二人には目もくれずに、黙々と干して行く。
「薫子ちゃん!薫子ちゃん!」
「………。」
「?」
「おーい!薫子ちゃん!」
「…………。」
全く返事をしない薫子。それに声をかけている龍馬に振り向きもしない。
「……おい、武市。薫子ちゃんは耳が聞こえんのか…?」
「………。」
不思議そうにする龍馬の間を抜け、薫子の後ろまでやって来ると、
「……っ!」
「!?」
「お……!」