恋影
「その辺にしておけ、怪我に障る。」
「じゃが……!」
「処置はしておいた。安静にしていれば、良くなるだろう。」
「武市…!」
武市は龍馬達の間を抜けて、白鳴に女物の着物を差し出す。
「……?」
「着物だ。それでは過ごせまい。部屋を用意したから着替えて来るといい。」
「え……!」
「おい、以蔵。つれて行ってやれ。」
「こっちだ。ついて来い。」
「………。」
「早く行きなさい。」
「……はい。」
白鳴は慌てて以蔵の後について行った。
とはいっても、その部屋は武市の隣の部屋であった。
部屋の襖を開けると、広々とした部屋が目に飛び込んで来た。
「!」
日当たりも良く、庭には草花が綺麗に咲いていた。
「ここを今日から使え。必要な物があれば言えば用意してやる。」
「え……?」
今日からって……。
「お前の家が見つかるまで、ここで世話をすることになったから、師匠に感謝するんだな。」
と、言うことは今日からこの宿屋で、武市と過ごすことになるのだ。
こんな上手い話し今までに無かったことだが、武市の側にいられることになることは願ったりだ。
改めて武市達に心から感謝をする白鳴。
「じゃあ、着替え終わったら、部屋に声をかけろ。師匠が待って下さっているから。」
そう言われてみて気づいたが、壁となっている襖の向こうから、龍馬達の声がすぐ近くに聞こえてくる。
つまり、この襖の向こうは武市の部屋と繋がっているということらしい。
すると、ガラリと襖が開き、武市が顔を出す。
「!」
「以蔵、いつまでそんな所にいる。早く戻って来い。」
「はい、師匠。」
なんにも気にすることなく以蔵は、あいた襖から向こうの部屋へと行ってしまう。
パタンと閉められた襖の向こうで、白鳴は一人きりとなってしまう。
「…………。」
とりあえず、早く着替えていたほうが良いだろう……。
白鳴は表の襖を閉めて、部屋の中へと入った。
白鳴は武市が用意してくれた着物に袖を通す。いたしかないとはいえ、武市の役に立つために、あえて男装していたというのに、これでは逆戻りである。
とりあえず、髪を結び直し腰に刀をさし、白鳴は武市達のいる隣の部屋へと向かった。
「……失礼いたします。」
襖を開けて中へと入る。