恋影
「………?」
皆の目線が白鳴にそそがれる。
「あ、あの……何か……?」
久しぶりに着た女の着物だったから、何処かおかしな所があったのだろうか?
少し不安になってしまう。
「……やはり、こう見たら、何処をどう見ても女の子じゃな。」
「やっぱり姉さんは女子ッスね!」
「………。」
改めて女の子だったことを自覚されてしまう白鳴。なんだか、これはこれで虚しくなってしまう。
「傷の具合は本当にもういいのかい?」
「……桂さん!」
いつの間に来たのやら、桂が高杉の横に座っていた。
「深手を負っとったそうだが、医者を呼ばんでもええんか?」
「……皆さん、本当にご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした。」
正座をしたまま白鳴は深々と頭を下げる。こうしていられるのも、捜しに来てくれた武市達のおかげなのだ。
本当に感謝してもしきれないぐらいある。
「君が無事であったのならそれでいい。」
「桂さんなんか、一日に三度は寺田屋に来ていましたしね。」
「中岡君……!」
「武市さんなんかは、毎日捜しに出てましたし、以蔵君なんか三日三晩帰って来ませんでしたしね!」
「………。」
「……………。」
「ほんまに無事で良かったわい。それよりも、おまんの話しを聞かせてくれるか?」
「え……?」
「ワシらおまんの名前すら聞いていなかったけいのう。よかったら話してみるぜよ!」
気づいてみれば、白鳴は自分の名前すら言っていなかったことを思い出す。あの時は話しをしている状況ではなかった気がする。
でも、ここで世話になる以上、武市達のことも含め自分のことも相手に知ってもらわなけるばならない。
「……私、白鳴って言います。この町へは人を捜しに来ました。でも、その人はなかなか見つからずに……。」
「それで、あの場におったわけか……。」
「はい。町中にいれば、浪士達に絡まれると思い、男装をしていました。」
「して、その捜し人とは誰のことだ?」
「………命の恩人です。名前は覚えていませんが、私の記憶にだけ残るたった一人の人です。その人の役に立てることが、私の望みなのです。」
「……なるほど、そういう理由だったのかい。それなら、見つからないわけだ。」
「……?」
「桂さん?」
「いや、僕もずっと捜していてね。」