恋影
薫子がいきなり振り向いて、手に棒を握っていた。
寸前の所でそれは止まっていたが、完全に急所に当たっていて、それは微かに震えていた。
「…………。」
ため息混じりで、武市はそれを薙ぎ払うと、棒は地面に落ちた。
「……この前も言ったが、まだ分かっていなかったようだな。また、叩かれないとわらないか!?」
「………!」
武市の怒鳴り声が庭中に響く。
「……人に刃を向けると言うことは、人の命を奪うこと!しいては、自分の命も奪われることを覚悟するということだ!それは、棒でも竹刀でも一緒のことだ!それが、なぜまだ、分からない!!」
「……っっ!」
涙ぐみながら、泣くのを堪える薫子。その手には痣や傷が残されていた。
「……武市!もうその辺でやめんか!!小さな子供にそんなに怒鳴るもんじゃないぜよ!!」
それを見た龍馬が堪らずに、その元に駆け寄って来た。
「ああ~…こげんなってしもうて、可哀相にな……。」
「龍馬!」
「どれ、お兄さんに見せてみるぜよ!」
龍馬は薫子の小さな手を優しく、手に取ると、
「!!」
薫子は慌ててそれを隠すのであった。
「……!」
何かに酷く怯えているような……、そんな感じがした。
「武市……。」
龍馬はそれに勘ずいていた。
薫子は自室に戻され、武市から罰として、勉強をさせられることとなった。
前から読み書きが出来たようで、そんなに頭が悪いわけでもなかった。
武士の子供であるなら、読み書きは必須だ。どんなことがあっても損にはならない。
その間に、武市と龍馬は二人だけで別室で話し合いをしていた。
「……武市、あの娘のあの反応は、もしや……。」
「………そうだ。」
「なんで、止めなかったんじゃ!!あの娘の父親なら、止められたはずじゃろうが!? あん子の腕や足は、子供の手足じゃないぜよ!!」
龍馬が言いたいことは分かっていた。
だが、気付くのに遅すぎた。
それに、悪くないとも思っていたのだ。
「どうしてじゃ!?どうしてあんな酷いことが出来るんじゃ!!」
「………その方が、あの娘のためだと思ったからだ…。」
「あの娘のため……?」