恋影




「これでもだいぶ落ちたほうです。」


やはり袖の部分はシミになっていて落ちていない。赤く染まった着物と桶に溜まる赤い水。こんなもの自分の物でも女には、きつい物である。


それでも白鳴は自分の手で洗っていた。



「……そうか。」


「あっ、その着物…!」


「?」


声がするほうに振り返ると、中岡が渋い顔をしてこちらへと走ってくる。


「やっぱり姉さんだったんッスか!朝行ったら無くなってたから、何処に行ったかと探していたんッスよ!」


昨日血まみれになった着物を預かると言って、中岡に渡していたのだが、なかなか戻ってこないので、自分で探して見つけてきたのだ。


「……玄関に置いてあったけど。」


「それはもう着れないから、処分しようと思ってたんッスよ!ここにいれば、男装する必要もないッスから!それに、着物は女将さんからの、贈り物なんッスよ。だから、気にすることなく、用意された女物の着物を着て下さい。」


京の治安が悪いから男装をしていることにしていた白鳴。確かに武市達の側にいれば、男装する必要も無くなる。


中岡が言うことはもっともかもしれない。


「………。」


「そうじゃのう!こげな着物着るよりかは、もっと可愛らしい着物のほうが、白鳴さんにはあっちゅう!捜しとると言った人も、男の格好で会うよりも、女の着物のであったほうが嬉しいに決まっとるからのう!」


本来ならば、龍馬の言うとおり、女の格好で武市に会いたかった。


あって喜ばしたかった……。


だけどそれは、【白鳴】では叶えられないのだ。


白鳴は武市の役に立つためにいるから……。


「…………。」


「……白鳴さん?」


「は、はい……!」


「ワシら何か余計なことを言ってしもうたかのう……?」


「あ……、いいえ。なんでもありません。でも、これは私の着物ですから、自分で処理させて下さい。」


「その方がいいだろう。」


「武市!」


「武市さん!」


「このような水で洗うことを反対するのは分かるが、着物事態は白鳴さんのものだ。僕達が手を出すものではない。」


「…………。」


つまるところを言えば、こんな血まみれのものを洗わせたくなかったのだ。


「分かったのなら、行くぞ。そろそろ、朝ご飯の時間だ。白鳴さんも支度を整えてきなさい。」


渋々と武市の後について行く龍馬達。


< 72 / 93 >

この作品をシェア

pagetop