恋影
「これでもだいぶ落ちたほうです。」
やはり袖の部分はシミになっていて落ちていない。赤く染まった着物と桶に溜まる赤い水。こんなもの自分の物でも女には、きつい物である。
それでも白鳴は自分の手で洗っていた。
「……そうか。」
「あっ、その着物…!」
「?」
声がするほうに振り返ると、中岡が渋い顔をしてこちらへと走ってくる。
「やっぱり姉さんだったんッスか!朝行ったら無くなってたから、何処に行ったかと探していたんッスよ!」
昨日血まみれになった着物を預かると言って、中岡に渡していたのだが、なかなか戻ってこないので、自分で探して見つけてきたのだ。
「……玄関に置いてあったけど。」
「それはもう着れないから、処分しようと思ってたんッスよ!ここにいれば、男装する必要もないッスから!それに、着物は女将さんからの、贈り物なんッスよ。だから、気にすることなく、用意された女物の着物を着て下さい。」
京の治安が悪いから男装をしていることにしていた白鳴。確かに武市達の側にいれば、男装する必要も無くなる。
中岡が言うことはもっともかもしれない。
「………。」
「そうじゃのう!こげな着物着るよりかは、もっと可愛らしい着物のほうが、白鳴さんにはあっちゅう!捜しとると言った人も、男の格好で会うよりも、女の着物のであったほうが嬉しいに決まっとるからのう!」
本来ならば、龍馬の言うとおり、女の格好で武市に会いたかった。
あって喜ばしたかった……。
だけどそれは、【白鳴】では叶えられないのだ。
白鳴は武市の役に立つためにいるから……。
「…………。」
「……白鳴さん?」
「は、はい……!」
「ワシら何か余計なことを言ってしもうたかのう……?」
「あ……、いいえ。なんでもありません。でも、これは私の着物ですから、自分で処理させて下さい。」
「その方がいいだろう。」
「武市!」
「武市さん!」
「このような水で洗うことを反対するのは分かるが、着物事態は白鳴さんのものだ。僕達が手を出すものではない。」
「…………。」
つまるところを言えば、こんな血まみれのものを洗わせたくなかったのだ。
「分かったのなら、行くぞ。そろそろ、朝ご飯の時間だ。白鳴さんも支度を整えてきなさい。」
渋々と武市の後について行く龍馬達。