恋影




今だ後藤との仲は改善されていないらしい。ならば、龍馬が行くのが適切である。


「……分かった、頼んだぞ。」


「ああ!必ず話しをまとめて来るけい、任しちょけ!」


「なら、俺もお供するッス!」


中岡も同行を願い出る。龍馬、中岡がいれば、いくら残忍な後藤でも、話しをまとめることが出来るだろう。


「話しはまとまったようだね。では、長州藩邸へ行くとしようか。後藤が待っている。」


「ああ。」


龍馬達は桂と共に出て行った。部屋には武市と以蔵、白鳴が残された。


「俺は部屋で休んで来ます。いいですか?」


「ああ。」


以蔵は部屋を後にした。


「さてと、僕達も行くとしますか。」


「え……?」


「人を捜しているのでしょう?町に出なければ、見つかる人も見つかりませんよ。」


「……でも、町に出るのは危ないのでは……?」


「心配無用です。そうなった場合は、その場で最善の選択をするまでですから。さあ、行きますよ。」


「………。」


最善の選択をするということは、行き当たりばったりで対応するということだ。だが、当の武市はさっさと出て行ってしまっている。


とにかく、武市が危なくなれば、助けるまでだ。白鳴は小太刀を手にすると、それを持って出て行った。


「お待たせしました。」


「………。」


宿屋から出ると、武市が驚いたように、白鳴を見遣る。


「……どうかしましたか?」


「刀は必要ないのではありませんか?それでは、怪しまれてしまいますよ?」


姿格好は女の子なのに、刀をさしている。見る人から見れば、かなり怪しい人である。


「あ……で、でも、これは……。」


理由を探そうとするが、適当な理由が見つからない。


「……これを使いなさい。」


「……!」


武市は懐から小太刀よりも小さい刀を取り出す。それは懐刀といって、女性や力の弱い者が身を守るために使う刀である。


明美が持っていたのを何度か見たことがあった。


「これなら持っていても、怪しまれずにすみます。」


「……ありがとうございます。」


白鳴は刀を受け取り、自分の懐へと刀を忍ばせた。


「それにしても、刀が扱えるとは……珍しいですね?」


「………昔、習ったことがあったんです。」


目線を外して答える。


それを教えたのは、紛れも無く武市であった。それを今の武市は知らない。
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