恋影
「そうですか、それは良いことです。では、行きましょう。」
まるで、全く関心がないかのように、前を歩き出す武市。
白鳴はその背を見るが、今の武市は白鳴の知る武市ではない。それがいまさらながらに分かってしまう。
白鳴は武市の後ろをついて行った。
町はいつもと変わらない賑わいを見せていた。
だが、敵である浪士組が何処に潜んでいるか分からない。武市は辺りを見回し、危険がないことを確認する。
「……ここなら、大丈夫でしょう。それで、その人の特徴は?」
「え……?」
「特徴が分からなければ、捜しようがありませんので。」
だが、白鳴の捜し人はもう見つかっている。その本人を目の前にして、本人を捜すわけにはいかない。
「黒くて長い髪を結っていて、少し厳しそうな顔つきですけど、その瞳は優しいです。」
所詮は白鳴の想像の中の人でしかない。少しした特徴だけでは、本人に看板されることはまずない。
「……それだけでは、捜すのは難しいですね……。他に特徴はないのですか?その人の職業とか分かれば、少しは捜しやすくなるのだが……。」
「職業は侍です。その他に説明出来る特徴はありません。」
本人を目の前にしているだけに、特徴を上げるのなら、言いきれないぐらいたくさんありすぎる。
だが、看板されるわけにはいかないのだ。白鳴はそれだけに留めた。
「ふむ……。」
武市は辺りを見渡す。
黒髪を結っていて、侍なんて……そこら中にいる。目を見ても侍なんて似たり寄ったりだ。とても見つけられる特徴ではない。
「とりあえず、君はその人を捜してみて下さい。僕も出来るだけ、人をあたってみます。行きましょう。」
「はい。」
白鳴は武市と一緒に町の中を歩き出した。幸いにしてか、街中では浪士組らしい者の姿は見当たらない。
浪士組と戦わないでいいだけ、安心してしまう。
こうして武市と歩くのも久しぶりだ。
ふと、町の中を見渡すと沖田らしい人影が近づいてくる。
「……!」
あの青い羽織りは着ていない。どうやら隊務ではなさそうだ。
とりあえず、武市とだけは会わせないほうが良いだろう。
「武市さん!」
「どうかしましたか?」
「私、こっちを捜してみます。同じ所を捜していても、あの人は見つからないと思いますから。武市さんは反対をお願いします。」