恋影
「しかし、浪士に絡まれでもしたら、大変ですよ。」
「分かっています。でも、私にはこれがありますから大丈夫です。」
白鳴は胸元に隠してある懐刀に手をやる。
だが、武市は一瞬顔を曇らせ、白鳴を見る。
「……分かりました。では、一刻後にここで落ち合いましょう。」
「はい!」
武市は白鳴とは反対方向の道へと行く。人込みの中に武市が紛れるのを確認すると、白鳴は行くと言った反対の道へと、走って行った。
出来るだけ沖田を引き付け、武市が離れる時間をつくらねばならない。
とは言うものの、この前会ったばかりなのに、いきなり話しかけるのも気が引けるというものである。
とりあえずは沖田がこっちへ来るのを待つしかなさそうだ。白鳴は店の軒先へと入り様子を伺う。
すると、人込みに紛れて男が沖田に話しかける。会話は聞こえないが、どうやら彼も浪士組の一員のようだ。
白鳴は気づかれないように、こっそりと二人に近づく。
「……岡田が見つかったとのことだ。すぐに隊務に戻れとの副長の命令だ。」
「……!」
「分かった、それで岡田は何処にいるわけ?」
「橋の向こうの竹林だ。」
二人は白鳴には気づくことなく、踵を返して走り去ってしまう。
岡田……。
間違いなく以蔵のことだろう。お尋ね者なら、その可能性が高い。
白鳴は二人の後を追った。
一方、白鳴とは全くの反対方向へと行った武市は、白鳴が言っていた特徴を頼りに、それらしい人物を捜していた。
白鳴からこの前から聞いていた話しでは、その人物はかなりの有力な人物と思われる。となると、ここら辺を普通にうろついているとは考えにくい。
だが、身を隠しながらも過ごしている可能性もあるのだ。武市はそれらしい人物を捜す。
すると、何者かがこちらへと走って来る。
浪士組だ。しかも、幹部連中ではなく、下っ端隊士のようだ。
武市は民達に紛れながら、当たり前のように身を引き下げる。下っ端ならば、そう簡単には見つからないのだ。
武市の目の前を隊士達が走って行く。武市が隊士達が行くのを確認すると、隊士達は白鳴が向かった先へと走って行く。
「………!」
白鳴が何かに巻き込まれたのではないかと思い、武市は隊士達の後を追いかけた。
沖田達の後を追いかけた白鳴は、茂みの中から様子を伺っていた。