恋影
どうやら、この近くに以蔵がいるようだ。
沖田達が走って来て、白鳴が隠れている茂みの前で止まる。
「【一】君 そっちにはいた?」
「いや。」
「……どうやら、また逃げられちゃったようだね。」
「ああ。」
どうやら以蔵は、沖田達が来る前に、逃げたようだ。
と、そこへ隊士達が駆けて来る。
「組長!岡田が見つかりました!」
「!」
「分かった、そっちへ向かう。」
「は!」
隊士達と共に沖田達も駆けて行く。白鳴もその後を追いかけようとすると、誰かが白鳴の肩を掴んだ。
「!」
そこにはいるはずのない武市がいた。険しい顔をして白鳴を見る。
「……武市さん…!どうしてここに?」
「それはこちらの台詞です。戻りますよ。」
「私はこのまま浪士組の後を追いかけます。武市さんは寺田屋へ戻って下さい。」
「何馬鹿なことを……!見つかったら今度は、捕虜だけではすまされないのですよ!?」
確かに武市の言うように、今度はただではすまされないかもしれない。しかし、仲間を放っておくことも、武市を危険に晒すことも出来ない。
「それは承知の上です。幸い、浪士組には私達の関係を知られてはいませんし、もし、捕らえられたとしても、私が知らないことにすれば、害は及びません。だから、安心して下さい。」
「そういう問題ではない!それに、これは僕達の問題で君には関係ないはずだ!!何も力を持たぬ者がでしゃばる場ではない!」
「だからと言って、助けてくれた方の仲間をこのまま、敵の手に引き渡すことは出来ません……!」
白鳴は武市に背を向けて、行こうとすると、今度は腕を引っ張られ、浪士組とは反対方向へと連れて行かれる。
「……こっちだ。以蔵が無事ならば、いる場所はあそこしかない。」
「………!」
掴まれていた腕から、手に……、武市の手が白鳴の指の間に絡ませていた。武市の背中しか見えないが、なんだか妙に懐かしい気がした……。
以蔵が隠れているという場所へと向かう。後ろからは白鳴がついて来る。思わず繋いでしまった手は振り払われることはない。
「………。」
ただ、ひたすら走る。
浪士組に捕まったり、男の格好をして刀まで持って、京へ来たただの女。
そういう女なら、龍馬の姉の乙女姉さんで慣れているはずだ。なのに、なぜか白鳴のことが気になる。